再生医療 その4 再生医療のコスト分析(続)

《その3》で1)開発費の負担、2)Process Developmentの費用、そして3)生産施設の減価償却費についての考え方を示した。今回は残りのコスト項目について考え方を示す。

 

4)生産施設のバリデーション、クオリフィケーション、キャリブレーション等のメンテナンスに関わる費用は?

生産施設について約100万円/m2(スケルトン インの場合)が必要であるとした。コスト分析として忘れられがちなのは、生産施設のメンテナンス費用である。普通の生産施設でもメンテナンス費用をコストとして計上することは当たり前であるが、GMP準拠施設においてはバリデーション(Validation) 、クオリフィケーション(Qualification)とキャリブレーション(Calibration)に大きな費用が必要となる。

・「バリデーション」とは、治験薬製造施設の製造設備並びに手順、工程その他の治験薬の製造管理及び品質管理の方法(以下「製造手順等」という。)が期待される結果を与える事を検証し、これを文書化することをいう。(第1 総則、4.定義 4.7)

・「クオリフィケーション」とは、構造設備(例えば、設備・装置・機器・ユーティリティ等)について、計画・仕様・設計どおり適格であることを評価確認し、これを文書化することをいう。(第1 総則、4.定義 4.9)

  注(  )内は「治験薬の製造管理、品質管理に関する基準(治験薬GMP))平成20年7月9日 薬食発第0709002号」よりの引用条項を示す。

・「キャリブレーション」とは、計測機や計測システムが正常な値を示しているかについて、計量法またはその他の法律等によって定める検定機関で校正を行い、文書で確認することを言う。

  これらの作業には生産施設の規模にもよるが、最低でも2週間は必要で、この間は細胞加工作業を停止せねばならない。また、不都合が発見された場合はその補修等にかかるコストを考慮する必要がある。大略では10~20万円/m2程度となる。

  この費用は生産施設の年間稼働率に関係なく発生すると考えるべきなので、稼働率が低下すると細胞加工受託費用に直接的に影響を与える。

  作業の詳細については「GMP準拠細胞処理施設の基本」(日本工業出版 境 弘夫著 2012)に詳しい。

 

5)バックヤードを含む人件費は?

   細胞加工受託施設で必要とする人件費について考える。

(1)直接人件費

 SOP(Standard Operation Procedure)では製造管理、衛生管理、品質管理、文書管理  

 が定められている。これらは独立した細胞加工受託施設においては全て直接費とし  

 て計上される。

 品質管理作業の内、化学分析などの作業は外注することが可能なので管理者費用を

   除き外注費とすることが可能である。しかし、他の作業は全て当該の細胞加工受託施

   設における直接人件費としてコストに反映せねばならない。

   製造部門と衛生管理部門の兼務は可能であるが、品質管理部門は独立した組織が必要   とされる。

(2)間接人件費

 総務・事務部門、調達部門、受発送部門、研究開発などは間接部門としてコストが計

   上される。

 細胞加工受託施設として特徴的な事は、調達部門に特殊な知識が要求されることで、     施設で必要となる多くの種類の薬品、機材、消耗品についての専門知識と同時に納入     先(調達先)の査察(Qualification)を行う知識が必要なことである。また、受発送部門     では生きているヒト細胞を受け入れ、加工の終了した細胞又は細胞     製剤を健全な状    態で発送する必要があり、特殊な知識が必要となる。

GMPに準拠した細胞加工受託施設では直接員は当然として間接員の多くもGMP教育を定期的に受けることが要求されるので、人件費を低下させるためにアルバイト的な要員確保は困難である。従って、これらの要員の人件費は固定費として考慮せねばならず、生産施設の稼働率によってコストへの影響が出る。

 

6)品質管理に要する費用は?

GMP準拠の生産施設では品質管理部門は製造部門および衛生管理部門から独立して

いることが求められる事は先に述べた。

細胞加工受託施設ではどのような品質管理が必要かは、実際に生産活動に関与しない

と分かりにくいところがある。

(1)原料受入時点における品質管理

これは委託側との契約によるが、受け入れた細胞(原料)の品質(viability等)、自己末梢血の品質(感染菌の有無等)及び媒体についての品質を生産施設側で確認する事の必要性である。

即ち、培養・加工処理が始まってから問題が派生した時にその原因を遡ることで責任の所在が明確にすることが可能となるからである。

(2)プロセス途中での品質管理

継代途中の中間製品についてどのような形で品質を確認するかは、個々の培養プロトコルによって異なるので一概には言えないが、目視は当然として、数種類の表面マーカー、ファックス(FACS)等による品質管理は必須と考える。

(3)最終製品の品質管理

目的とする細胞加工が終了したかの確認は最も厳密に品質を確認せねばならない。これについては委託側との契約において 決まるものであるが、受託側としてもプロセスの責任を明確にするための品質検査を受け加える必要があろう。

工業製品のOEMとは異なり、細胞加工においては時間および環境(温度等)により品質が変化する性質を持つので品質管理は重要である。

 (4)出荷前品質管理

一般的には加工処理が終了してから直ぐに出荷することは稀で、施設内の冷凍保管装置で保管される。加工処理終了から出荷までの日数にもよるが、出荷前に品質管理を必要とする場合もある。

細胞加工受託施設における品質管理はプロセスの妥当性を証明する大事な作業でありコストとして大きな比率を占める。コストを下げようとして品質管理を行う化学分析室を施設内で保有する場合は、分析員の人件費は固定費となる。

 

7)培養液や種々の薬品

細胞加工受託業を認めることにより生産コストが大幅に下がるという間違った見込みの一つが培養液や種々の薬品に関わるコストである。

一般の工業製品や食品加工などにおいてはメガプロダクションにより間違いなくスケールメリットを享受できる。しかし、細胞加工業においては、使用される薬品は原則、個々の細胞と1対1となっており、特定の薬品を大量購入し複数の細胞加工に使用するという考え方はGMP的に成立しない。即ち、個々の薬品瓶(内容)について品質の証明が要求され、余ったから他の細胞加工に使用可能とは限らない。但し、条件が合えば使用も可能な場合がある。薬品瓶(内容)の個々について厳密な管理が行われている。また、使用可能な薬品の種類も限られており、1本当りの容量も300~500mlと小さいのでスケールメリットは出せない。

使用する薬品については製造部門の品質管理が問われ、必要に応じて購入者側が査察を行い、品質について(特にエンドトキシン検査)の確認・証明を行わなければならない。

薬品全てについて上記の品質管理がコストとして反映してくる。

 

続く

 

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