再生医療 その3 再生医療のコスト分析(続)

再生医療 その3 再生医療のコスト分析(続)

 

開発費の負担を別にすると、再生医療のコスト分析において、最大のパイは細胞そのものを増殖、分化・誘導する加工に関わる部分であることに間違いが無い。経産省が中心になって纏めた再生医療等安全性確保法(平成26年11月25日施行)により、細胞加工の外部委託が可能になったため、細胞加工に関わる費用が著しく低下するという期待を持たれた研究者やベンチャー企業が居ると思うが、実態は異なる。“大量生産”というこれまでの生産体制を頭に浮かべると間違いである。“他家細胞”(マスターセル)からワーキングセルを製造する過程やワーキングセルから細胞製剤を生産する過程では、生産規模によるがやや生産コストを下げる工夫が生きてくる。しかし、再生医療の対象となる疾患は化学薬品では効果がない特殊な疾患に限られるであろうから、大量生産の規模が全く異なることを考えるとやはり生産コストは大きくなる。

生産コストを分析すると、

 1)開発費の負担をどれだけコストに反映させるか?

 2)Process Developmentの費用をコストとして見ているか?

 3)生産施設の減価償却費は?

 4)生産施設のバリデーション、キャリブレーション等のメンテナンスに関わる費用は?

 5)バックヤードを含む人件費は?

 6)品質管理に要する費用は?

 7)培養液や種々の薬品は?

 8)消耗品・資材・機材費は?

 9)原料細胞、製品(細胞製剤)の保管・輸送に関わる費用は?

 10)細胞製剤の梱包等に関わる費用は?

 11)感染性廃棄物などの処理費用は?

等を個々に分析していかねばならない。

 

1)開発費の負担をどれだけコストに反映させるか?

これは、産業界においても製品毎に試行錯誤が行われていて、一口に論じることは難しい。

売価を下げるためには、開発費の負担を下げる必要がある。

最近話題になった小野薬品の悪性黒色腫向けのオプジーボを肺がん患者にも適用することで薬価を下げる動きとなったように、適用する患者の数の算定方法により販売価格はいかようにも変化する。再生医療分野においても、近年、大手製薬企業がベンチャーがINDまで進んだパイプラインを買収する動きがあり、これは経営的に回収せねばならないコストなので、当然コストとして販売価格に反映される。

治験段階ではその費用は開発費に含まれ、患者の負担は無いので、再生医療のお蔭で治癒した。改善した患者は大きな恩恵を得、マスコミも大いに喧伝しょう。しかし、いざ、保険収載となると、厚労省と最も大きなせめぎあいになるのがこの開発費負担であると言われる。

ケースバイケースだと思うが、再生医療のコスト分析をする際に決して避けて通ってはいけない費用(コスト)である。

 

2)Process Development(PD)の費用をコストとして見ているか?

薬品会社の研究部門にいる研究者ならば承知しているが、大学の研究者の多くは非常に特殊な条件下で研究開発を行っているという認識が少ない。山登りに譬えるならば、多くのサポートを貰い何が何でも頂上に昇れば、確かにその処女峰を征服したことになる。しかし、麓から頂上までのルートはよりスマートなルートがあり、それを発見し可能性を実証するという努力が忘れがちである。

再生医療においてもルートを費用、品質の安定性、操作の安全性、確実性等の言葉で置き換えると理解されるが、研究者が行った研究成果を基に更なるルート探索を行わねばビジネス化は難しい。良い例がiPS細胞の製作についても未だにより確実で安全性の高い方法の研究が行われていることである。

このような、より良い制作方法の研究はProcess Development(PD)と呼ばれるが、一般にこれはオリジナルな研究者の手を離れて行われることが多く、LonzaやPCT(Progenitor Celle Therapy)のような手慣れた専門業者に委託されるケースがある。日本には残念ながらこのようなPD を手掛ける専門企業は見当たらない。(タカラバイオ(㈱が遺伝子工学分野で近いビジネス形態を模索している)

現在、幾つもの再生医療研究が実施されているがProcess Developmentまで進んでいる研究は少ないと思われ、その分、このPDの必要性を認識し、その費用を原価分析に含めているパイプラインは大手製薬企業以外では無いと思われる。

 

3)生産施設の減価償却費は?

言うまでもないが、細胞加工施設はGMP(Good Manufacturing Practice)に準拠して建設され、運営される。細胞加工はGMPの精神に則って注射液などの無菌医薬品製造と同レベルの品質管理、衛生管理、製造管理が必要とされる。

加えて、自家細胞、他家細胞に限らず生きている細胞を扱う事から、無菌医薬品の製造におけるよりも、human errorやcross contaminationについての対策を施設面からも行わなければならない。この簡単で重要な視点に対しての関心度が、実際に細胞加工過程を直接的に管理した者以外は理解されていないのが現状である。

細胞加工を生業とする場合、上記の条件を入れると、既設の建物に処理施設を建設する場合(スケルトン イン)でも少なくとも100万円/m2の建設費が必要となる。

この建設費が細胞製剤のコストへどのように反映されるかは、一つにこの施設の稼働率による。